毎年9月21日は「世界アルツハイマーデー」
1994年「国際アルツハイマー病協会」(ADI)は、世界保健機関(WHO)と共同で毎年9月21日を「世界アルツハイマーデー」と制定、9月を「世界アルツハイマー月間」と定めました。日本国内でも様々な取り組みが行われています。認知症当事者やご家族の交流・相談、認知症介護に関する調査や研究などが進められています。日本では2025年には高齢者の約5人に1人が認知症になると見込まれています。令和3年度の介護報酬改定においては、本人主体の介護が推進されるよう、訪問系サービスに認知症専門ケア加算を拡充したり、介護職の無資格者への認知症介護基礎研修の義務づけなどがされました。ひとりひとりがプロの介護士として「認知症」の正しい理解と適切なケアができるように学んでいきましょう。
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アルツハイマー型認知症とは
図 内閣府ホームページ: 平成29年版高齢社会白書(高齢者の健康・福祉)によると、65歳以上の認知症高齢者数と有病率の将来推計は平成24(2012)年は認知症高齢者数が462万人と、65歳以上の高齢者の約7人に1人(有病率15.0%)であったが、37(2025)年には約5人に1人になるとの推計もあります。そして、認知症の中でも一番多い認知症が「アルツハイマー型認知症」で、認知症全体の67%をしめています。参照:前回の記事【認知症の基礎理解Ⅰ】認知症の定義から症状・原因まで徹底解説
アルツハイマー型認知症(Alzheimers disease,AD)とは,認知機能の低下・人格の変化を主な症状とする認知症の一種です。ドイツの精神科医アロイス・アルツハイマーが、1901年に嫉妬妄想などを主訴として、はじめて彼の元を訪れた世界で最初に確認された女性患者の症例を1907年に発表しました。発症時、患者は46歳、56歳で死亡。当時は梅毒による症状と考えられていましたが異なっており、初老期に発症し進行性に記憶障害と妄想が現れる認知症状があり老人斑と神経原線維変化が認められたこの病気をアルツハイマー型認知症(AD)と名付けました。その後、この症例はクレペリンの精神医学の教科書で大きく取り上げられ「アルツハイマー型認知症」として広く知られるようになりました。
アルツハイマー型認知症の原因
アルツハイマー型認知症の発症の原因は諸説ありますが、脳にアミロイドβというたんぱく質がたまり正常な神経細胞が壊れ、はじめに海馬が萎縮して、最後には脳全体が萎縮起こることが原因と言われています。しかし、アミロイドβが蓄積する原因については明確なことは分かっていません。他に加齢や遺伝が、発症に関係するということは明らかになっていましたが、糖尿病や高血圧などの方はそうでない方よりもアルツハイマー型認知症になりやすいことが科学的に証明されたので生活習慣の改善が予防につながるといわれています。
アルツハイマー型認知症の症状
アルツハイマー型認知症は物忘れの他にも下記のような症状も出現します。
- これまで簡単にできたことができなくなる。
- 問題の解決が困難になる。
- 人格が変化して人とのかかわりを避ける。
- 会話等のコミュニケーションに問題が生じる。
- 場所、人、出来事に対する混乱が起こる。
脳の細胞が壊れることによって直接起こる症状が記憶障害、見当識障害、理解・判断力の低下、実行機能の低下など【中核症状】と呼ばれるものです。これらの中核症状のため周囲で起こっている現実を正しく認識できなくなります。本人がもともと持っている性格、環境、人間関係などさまざまな要因がからみ合って、うつ状態や妄想のような精神症状や、日常生活への適応を困難にする行動上の問題が起こってきます。これらを【周辺症状】と呼ぶことがあります。アルツハイマー型認知症でも、進行すると歩行が拙くなり、終末期まで進行すれば寝たきりになってしまう人も少なくありません。
1)アルツハイマー型認知症の初期症状
身近な家族は下記のようなことに気づくそうです。
- 同じことを何回も言ったり聞いたりする
- 財布を盗まれたと言う
- だらしがなくなった
- いつも降りる駅を乗り過ごした
- 夜中に急に起き出して騒いだ
- 置き忘れやしまい忘れが目立つ
- 計算の間違いが多くなった
- 物の名前が出てこなくなった
- ささいなことで怒りっぽくなった
引用:東京都福祉局 「高齢者の生活実態及び健康に関する調査・専門調査報告書」1995
アルツハイマー型認知症は早い段階からの服薬治療や、本人の気持ちに配慮した適切なケアにより、進行をゆるやかにすることが可能といわれています。服薬による効果は個人差がありますが、下図グラフのような効果が得られる場合もあります。しかしながら進行を緩やかにするために薬に出来ることは2割、残りの8割は「適切なケア」によるともいわれています
2)診断方法・診断基準
アルツハイマー型認知症を含め認知症の診断では、神経心理学検査(長谷川式認知症スケールやミニメンタルステート検査など)を実施し、認知機能、記憶、実行機能などについて調べます。また、CTや頭部MRIによる脳画像検査なども行われます。そして神経心理学検査が一定の水準を下回ること、脳の萎縮がみられることなどで診断が下されます。しかし、診断結果が判明することへの不安からご本人もご家族も受診を避け、発見が遅れてしまうことがよくあります。
HDS-R:長谷川式簡易知能評価スケール | アルツハイマー型認知症の検出に優れ、定評があり安心して使えるが、個別検査なので実施者側の負担が大きい。 |
MMSE:ミニメンタルステート検査(Mini-Mental State Examination) | 個別検査で広く用いられているが、何通りもの訳があり、オリジナルとは異なった使われ方をしていることが多い。HDS-R よりも学歴や職歴の影響を受けやすく、一定の点数で層別化するときには注意が必要。また、版権が米国にあり、使用に当たっては配慮が必要。 |
MoCA(Montreal Cognitive Assessment) | MCI の検出に優れている。個別検査で実施時間は 15 分かかり、HDS-R/MMSE よりも負担が大きいがMCI の検出を優先するなら HDS-R/MMSE よりも優れている。 |
RDST(the Rapid Dementia Screening Test) | 使用実績が乏しい。集団でも実施は可能。 |
ファイブ・コグ(Five Cognitive Functions) | 高齢者用の集団認知機能検査として、東京都健康長寿医療センター研究所と筑波大学精神医学によって開発された検査。マニュアルに沿って実施することができ、特に資格は必要ない。 |
引用:厚生労働省:層別化の指標についての補足説明と HDS-R 評価用紙
3)治療薬
アルツハイマー病に対してはアセチルコリン伝達を改善する薬剤、塩酸ドネペジル(アリセプト)が処方されます。これは病気の進行を緩やかにするものであり根本的な治療ではありません。平成23年春からは、アリセプトに加え、リバスチグミンとガランタミン、メマンチン3種類のアルツハイマー病治療薬が病院で処方できるようになりました。リバスチグミンとガランタミンはアリセプトと同様、アセチルコリン伝達を改善する薬剤ですがリバスチグミンは貼付剤なので吐き気や下痢等が少なくガランタミンはアリセプトとは別の作用も持っており、アリセプトが効かない人にも有効とされます。
商品名 | アリセプト | レミニール | リバスタッチ /イクセロン | メマリー |
一般名 | ドネペジル | ガランタミン | リバスチグミン | メマンチン |
薬効 | 認知症の中核症状の進行を遅らせる | |||
抑うつや無関心にも効果 | 神経伝達物質の分泌を促進 | 貼付薬のためコンプライアンスがよい ※1 | 興奮や攻撃性に効果 | |
副作用 | 消化器症状(悪心・下痢) | 皮膚症状 | めまい・下痢 | |
適応 | 軽度~高度 | 軽度・中等度 | 中等度・高度 | |
剤形 | 錠剤・OD錠・細粒・ゼリー錠 | 錠剤・OD錠・液錠 | 貼付薬 | 錠剤 |
※1 コンプライアンスとは・・・患者が医療者の指示に従って薬を服用すること
引用:厚生労働省老人保健健康増進事業等事業 若年性認知症ハンドブック
認知症の人への対応
中核症状は脳の認知機能の衰えなので、薬で進行を遅らせることはできても完治は困難です。
一方、周辺症状と呼ばれる心理的要因による症状は、周囲の人が認知症の方の気持ちを理解して安心できる対応をすることで軽減できる可能性があります。私たちの対応が認知症の進行に影響を与えているといっても過言ではありません。では、具体的にはどのように対応したらよいのでしょうか。
1)記憶障害
「新しいことを覚えることができない」
例)薬を飲んだにもかかわらず「まだ飲んでいない」と何度も薬を要求する。
「飲みましたよ。」と伝えても、「いや、飲んでない」と押し問答になることはありませんか?そんなとき、服用後の空の薬包を見せて「ほら、飲んでいますよ」とご本人に納得してもらおうとしたことはないでしょうか?実はケアマネジャーの私も「思いだしてもらおう」とそんなことをしていたのです。でも、そもそもご本人の記憶に「服用した記憶」がないのですから、空の薬包を見ても「服用した事実」を思い出せるわけがないのです。それなのに「飲みましたよ!」と言われてご本人はどう感じるのでしょうか?
まずはご本人の訴えを否定をせず最後までしっかりと傾聴しましょう。そのうえで、プラセボ(薬としての効き目のない乳糖やでんぷんなどを錠剤やカプセル剤などにしたもの)を飲んでいただいたり、他の事にお誘いするなどして気を紛らわしていただくなどの対応をしてみましょう。
2)被害妄想
認知症の初期段階に現れる「もの取られ妄想」
例)財布や通帳など貴重品の収納場所を忘れてしまい「盗まれた」と妄想してしまう症状。
認知症の被害妄想は、お嫁様や訪問介護職員などご本人の身の回りでお世話をしている人が疑われることがよくあります。場所がわからない場合、「一緒に探しましょう」と会話をしながらある程度の時間をかけて探し、気分を落ち着けてもらうのもよい方法です。
しまってある場所がわかっている場合は「私はここのタンスを探すので、お母さまはあちらの机をお願いします」と誘導し、ご本人に見つけてもらうのがよいでしょう。すぐにあなたが見つけてしまうと、場所を知っていたのではないかと勘違いされ、より疑われてしまうからです。「盗まれた」「なくした」などの言葉を控えて探しましょう。
3)徘徊
家の中や外を歩き回る行動が見られます。BPSD(認知症の行動・心理症状)のひとつ。
第三者からみたら意味のない行動に見えますが、ご本人にとっては、はっきりとした目的がある場合が多いです。例えば、コメ作りをしていた男性が夜中に突然「田んぼに行ってくる」と言って家を出ようとしてしまったり、家の中であれば大事なものを探し続けているのかも知れません。いずれにしてもご本人にとっては切実な行動である場合が多いことを理解しましょう。屋内での徘徊は、動線を確保したり、転倒や転落の可能性のある環境を整える等、ある程度まで対応が可能です。しかし、屋外での徘徊は、交通事故や列車事故等に遭う危険が伴います。警視庁:令和2年における行方不明者の状況」における原因・動機として「認知症または認知症の疑い」によるものは17,565人(構成比22.8%)と発表されています。地域住民や警察に保護されても自分の名前や住所などが答えられず、どこの誰なのかを突き止めるのが難しい状況です。
徘徊は介護者にとって対応が難しい症状ですが、ご本人にとっても時には命に関わることです。日頃から周辺をご本人と一緒に歩くなどして、顔を覚えてもらい、可能であれば地域の周辺住民に徘徊の可能性があることも伝えておきましょう。(個人情報保護との兼ね合いも忘れずに)
まとめ
私たちは誰でも「認知症」になりうる可能性があります。
認知症になったからといって「何もわからなくなってしまった」のではなくて、「わからなくなったこともあるけど、まだまだわかることもたくさんある」ということを理解できるといいと思います。そして、認知症ではない私たちが「自分だったら絶対にしないようなこと」を認知症の人がしてしまった場合「この人の覚えていることは何だろう?忘れてしまったことは何だろう?」と、まずは目の前の人の言葉を傾聴し、行動を観察することが大事です。そうすることで、少しずつそのひとのことが理解できると、私は考えます。