認知症の人の気持ちを伝えるevangelist 渡辺哲弘氏

監修者

一般社団法人Create Your Life・CAREPIST COLLEGE 事務局。 当法人・移動介護学校についての受付窓口&CAREPIST LAB.ライター。

一般社団Create Your Lifeが運営するYouTubechannel「ケアピストコネクト」から2021年9月21日に行われた WEB EVENTでの様子をテキストベースでお届けいたします。
当日の配信を見逃してしまった方はぜひご覧くださいませ。

渡辺哲弘氏 profile

渡辺哲弘氏

ナビゲーターまるこ(以下まるこ) はじめまして。早速ですが自己紹介をお願いします。
ゲスト 渡辺哲弘氏(以下渡辺氏) 滋賀県のきらめき介護塾 代表 渡辺哲弘です。介護の現場で20年ほど働き、7年前に「きらめき介護塾」を立ち上げました

「きらめき介護塾」立上げのきっかけ

まるこ:「きらめき介護塾」というのは具体的にどのようなことをされているのでしょうか。
渡辺氏:「きらめき介護塾」は、「認知症の事をお話できる人を養成する」という塾です。
まるこ:立ち上げたきっかけを教えてください。

「ひとりの100歩より100人の一歩」

渡辺氏:「認知症」は全国誰にとっても大きな課題となっています。自分自身が全国を飛びまわって認知症のお話をするのではなくて「ひとりの100歩より100人の一歩」という言葉にあるように、その地域の介護職員ひとりひとりが自分の地域で身近な人にお話しできるようになることが大事ではないかと思い立ち上げました。自分の地域に「認知症について相談できる人がたくさんいるんだ」と地域の人にも気づいてほしいという意味もあります。そのためにも介護職自身が地域に足を運んでほしいのです。
まるこ:実際、地域に出てその地域の人にお伝えするのは難しいことですよね?
渡辺氏:いつか伝えたいと思っている介護職員はいるんです。その多くの職員は「自分が地域の人に伝えられないのは知識がないからだ」と思ってるのです。しかしながら知識をたくさん入れたからと言って、伝えられることとは別。それならば教材を使って伝えられるようになるといいのかなと考えたのです。

介護塾を立ち上げる前

まるこ:塾を立ち上げる前の20年の現場経験について教えてください。
渡辺氏:障害の方の作業場で働いた後、高齢者分野のデイサービス、老人ホーム、グループホーム、ケアマネジャーなどの仕事をトータルで20年をしてきました。
まるこ:現場にいて「伝えることが大事だ」と気付いたきかっけを教えてください。
渡辺氏:現場にいると利用者さんから教わることがとても多い、そういう体験を地域でお話しできるようになるのが現場職員の強みですが、そういう体験談だけお話しても地域の人には伝わりにくいのです。体験談を話す前の基本的な内容の部分「認知症とは何か」のお話ができる教材があれば、より、その体験談が活きてくるのではないかと。

伝えたい気持ちがあればすぐに伝えられるものにしたい

まるこ:教材はおひとりで作られたんですか?
渡辺氏:イラストは友人に描いてもらいましたが内容は一人で考えて作りました。
まるこ:教材というと「難しい」と考えがちです。
渡辺氏:簡単に言えば「絵本」や「紙芝居」と同じですね。日本全国「赤ずきんちゃん」の絵本がありますよね。読むべき台本が全て書いてあるわけです。だから新米のお母さんもちゃんとお子さんに読んであげることができるのです。経験を積まないと読めないではなく、読みたい気持ちがあればすぐに伝えられるのが「教材」だと思っています。
まるこ:内容については様々な工夫をされているんでしょうか
渡辺氏:はい、地域の中には「認知症」について全く知らない人もいらっしゃいますし、いかにわかりやすくというところが大事かなと思って教材づくりをしています。

形になるまで10年、2000回

まるこ:ご自身でどれくらい読んでいるんですか?
渡辺氏:試作から教材として形になるまで10年ほど。地域のサロン、老人会で2000回ほど話をしながらブラッシュアップをしていき教材ができました。基本的に誰が読んでも伝わることが大事なので、時間がかかりました。
まるこ:かなり根気がいる仕事ですよね、心は折れませんでしたか?
渡辺氏:そういうの、好きなんですよ。
ま:10年もかけてつくられた作品なんですね。

ここで実際に渡辺氏による紙芝居実演していただきました。

実際に紙芝居を聴いて

紙芝居をカタチにすること

まるこ:最後の言葉がずんときて、あったかくなります、本当に凄いです。
渡辺氏:紙芝居を使うことによって、その後に語る体験談が活きてくると思うんです。
まるこ:なんとなく認知症の方の事がわかっていても、この紙芝居を聴くことであらためて認知症のことが「あ、そうだよね」と落ちてくる感じがとてもありました。素晴らしいです。この紙芝居をカタチにするにあたり一番ご苦労された点はありましたか?
渡辺氏:紙芝居のサイズ、試作品はA3サイズで作ったんですが、喫茶店やファミレスで「ちょっと聞いて」という手軽な啓発活動にしたいこともあって、常に持っていることができるよう、カバンに入らなくてはいけなかったんです。そこでB5サイズにしました。A4にしたら「カバンに入らない」と女性のメンバーから苦情がきてしまって(笑)。

誰もが伝えられるように

渡辺氏:誰もが伝えられるようにちゃんとセリフが書いてあるんです。読むだけでいいんです。たくさん勉強していつか伝えられるようになることも大事、でも伝えることを通してたくさん勉強したほうがいいのかなと思ったんです。だから全ページにセリフが書いてあるんです。どんな言葉を使ったら目の前の人に伝わるのか、そこが一番苦労した点です。
まるこ:全く介護の知識がない自分として、紙芝居をお聴きしましたが、難しい言葉もありませんでした、それにアルツハイマー型認知症に絞ってあったことでとてもわかりやすく感じました。
渡辺氏:現実的に一番多いのがアルツハイマーですので、しっかり理解したうえでステップアップとしていろんな認知症の事を学んでいけばいいのかな?と。今、別の認知症のバージョンも作っています。伝えることは学ぶこと、伝え手が自分で学んでいくことも大事ですね。

認知症の人を支えるために地域の人も巻き込むこと

まるこ:この紙芝居には講座があるのですか?
渡辺氏:「認知症シスター養成講座」というものがあります。3時間学んでいただいて今日から伝えられるようになるという内容です。シスターは6年間で1500人育成し、紙芝居は10万人程度が聴いてくれています。
まるこ:新人育成にも使えますよね。
渡辺氏:はい。地域のサロンや学校で使うシスターもいます。福祉教育の一環や認知症サポーター養成講座の一部として使っています。
まるこ:高齢者も増えていて、介護士だけでは賄えないですし、地域の人みんなが知っていくことが大事ですよね。
渡辺氏:認知症は進行する病気です。初期の状態は介護保険を申請してもそこにかからない方が出てくるんです。ということは、介護職員は「初期の方には関われない」ということなのです。介護職員として何ができるのか?できることは関わっている「家族や地域の人」に認知症の人への関わり方をつたえていくこと。それがうまく浸透していけば初期の状態を維持したまま、介護保険を使わず、寿命を迎える人が増えてくるのではないかと思うわけです。
まるこ:以前、私も質問をうけたことがあったんです。道に迷っている人に遭遇したらどうしたらいいの?って。ちゃんと気づいて聞けるようになる社会になるといいですし、その一助に紙芝居がなっているのだと思います。

介護の仕事をしている人しか知らない事実

相談窓口がわからない?知らない?

まるこ:福祉や介護に関わらなかった人は相談窓口は地域包括支援センターだということもわからないんです。
渡辺氏:制度上では、地域包括センターですが、介護の仕事をしている人しか知りませんね。だからこそ大事なことがあるのです。地域の人はそこに老人ホームやデイサービスがあることは知っているのです。それでも相談はしづらい。だからこそ施設の人がどんどん地域へ出て顔を覚えてもらう。施設があるから相談に行くのではなく、人は人に相談にいくと思うのです。多くの人は施設というものは相談に行く場所ではなく「要介護状態になっていくもの」と思っているのです。

専門職、地域へ出よう

まるこ:施設の人が外にでることが大事ですよね。
渡辺氏:そうですね。だから、施設で働く職員さんがまずは友達に伝えることが大事かなと考えます。友達は自分に何かがあったらその人に聞きますよね。一歩のきっかけ作りとして教材を使うのもいいかと考えています。

認知症になってもわかることもたくさんある

暴力、異食、徘徊、そんなイメージが先行する

まるこ:認知症になってもわかることがたくさんあるから問題を起こしてしまうというのが大事なキーワードですよね。どうしても認知症というと暴力や食べられないものを食べてしまったり徘徊したり、そんなイメージが先行しているように思います。そういうことに悩んでいる方にはどんなお声がけをされるんですか?
渡辺氏:認知症になったから暴力をふるうのでは決してないですよね。一日のうちでその人が笑顔の時間もあるはずなんです。その人はなぜ笑顔なんだろう、笑顔の時間はいつなんだろうって。考えるわけです。私たちだって笑顔の時もあれば、出来そうだと思ってできないことがあったらイライラするときもありますよね。

人はみんな同じ

まるこ:私たちも同じですよね。イライラしたり不安になったり。                         渡辺氏:その時に大事なことは、どう関わったらいいのかは、人それぞれ異なるんです。だからその方の事を良く知っている介護職員に相談するのが大事なんです。「お父さんは何をしているときに笑顔ですか?」とデイサービスの職員さんに聴いてみるのが一番いいのです。身近に相談相手を作ろうと思ったら身近な専門職と繋がることが必要なんですよね。                                      まるこ:一緒なんですね、不安だから出てしまうということ。その人自身を理解することが何より大切ですね。

紙芝居を通して大事にしていること

まるこ:紙芝居を通して何を大切にしていらっしゃいますか?
渡辺氏:私たちはお医者さんではないんです。「人の気持ち」を大事にしていきたい、みんな同じだよね、ということ。家族に迷惑をかけたくないから自分なりに一生懸命やってみた、という思いがあるということ。認知症はそのひとのたった一部なわけです。
まるこ:認知症になったから人が変わるわけではないですものね。
渡辺氏:わかっているようで、難しい部分ですよね。それを伝える時にこの紙芝居をきっかけにして伝えていければいいのかな?と。
まるこ:ご家族など近しい人はしんどくなったら相談に行けばいいということですよね。
渡辺氏:家族は24時間365日ですから。その大変さを具体的に介護士さんに伝えていくことがとても大事だと思います。朝のこの時間がこんな風に大変なのですと。
まるこ:周りのプロと一緒に本人の「安心」を支えていくというイメージですよね

明日から使える認知症ケアの視点

まるこ:明日から伝える認知症ケアの視点等おしえていただけますか。
渡辺氏:今日はアルツハイマーのことをお伝えしました。アルツハイマーの方はわからないこともあるけれどわかることもたくさんあります。その中で自分なりに正しいと思うことをしているんですね。目の前の人が自分だったら絶対にしないようなことをした場合「この人のわかっていることは何だろう、分からないことは何だろう」って考えること。

行動には絶対理由がある

渡辺氏:行動には絶対理由があるわけでその理由を見つけることができると、どんなふうにサポートをしたらいいのかが見えててくると
まるこ:認知症だからっていう視点で考えない、これは明日からすぐに使えます。その人自身をみて目の前の人が何に困っていて何が安心できるのかを考えたらよいのだと思いました。

紙芝居を学ぶことはできますか?

まるこ:紙芝居を学ぶにはどうしたら良いのですか?
渡辺氏:オンラインでも開催しています。養成講座を申し込んでいただけば紙芝居をお送りします。読み方と一緒にもちろん内容についても3時間かけて学んでいきます。
介護職でなくても民生委員さん、PTAの方も受講されています。DVD学習も選ぶことがができます。
まるこ:私もぜひ学んでみたいと思います。
渡辺氏:一人一人が自分にしか伝えられない人がいることを意識しながら身近な人に伝えていくことが大事かな?と思います。
まるこ:本日は貴重なお話をありがとうございました。

まとめ

「認知症だから」という視点ではなく「その人自身」を見ること。

私たち「認知症でない人」が、できそうだと思ったことができなかったらどんな気持ちになるでしょうか。きっと不安になったりイライラしたりするでしょう。「認知症の人」も同じです。「認知症になったから特別な人になってしまった、暴力をふるうようになってしまった」のではないということ。専門職として、あなたはご利用者のご家族や新人職員さんに正しく伝えることができていますか?

学ぶ機会はたくさん増えています。一昔前の常識が非常識になっている場合もあるのです。情報に振り回されることなく、正しい情報を選び抜く選球眼を持つ事もプロとして大事にしきましょう。

学びたい、成長したいあなたをサポートします、CAREPIST LAB