【食事介助】はじめての食事介助徹底解説

監修者

一般社団法人Create Your Life・CAREPIST COLLEGE 事務局。 当法人・移動介護学校についての受付窓口&CAREPIST LAB.ライター。

「食事介助ってなにするの?」

介護経験が全くないと「何らかの理由でお箸やスプーンを自分で持てなくなった人の代わりに口まで運ぶお手伝い」と考える人がいるかもしれません。しかし実際には食事介助が必要な人にはそれ以外にも介助が必要な理由がたくさんあることを介護士の皆さんはご存知だと思います。マズローの欲求5段階説上の図はアメリカ合衆国の心理学者アブラハム・ハロルド・マズロー(Abraham Harold Maslow, 1908年4月1日 – 1970年6月8日)が考案した「欲求5段階説」です。食欲は「睡眠欲」や「性欲」と共に、人間が生命を維持するための「生理的欲求」に含まれています。食欲は人として当たり前の「欲求」だと言えるでしょう。それでも前回の記事【高齢者にとっての食事とは?】食欲不振の原因と対策について でまとめたように当たり前の欲求が失せてしまう食欲不振の状態だったり、認知症の進行により目の前の食事が「食べ物であること」の認識できなくなっていたりなど、食事介助を必要とする人にはいろいろな原因があります。今回は、食事介助の正しい方法だけではなく、どうして食事介助が必要なのかも併せて一緒に学んでいきましょう。

Contents

食事介助ってなに?

1)食事という生活行為

食べる動作には、視覚(食べ物を目で確認)、嗅覚(においをかぐ)、聴覚(耳で聞く)、味覚(味わう)、触覚(手触り)上肢の動き(口まで運ぶ)唇の動き(食べ物を取り込む)、咀嚼(食べ物をかみ砕く)食塊(食べ物のまとまり)を作る、舌による移送などといった多くの器官や機能が複雑に関係しています。食べ物を口から取り入れるという行為は生活に楽しみをもたらす重要な行為と言えます。

2)「美味しく食べる」を支援する

人は皆、食べ物や味付けの好み、生まれ育った土地によってその人独自の「食文化」をもっています。それらを理解したうえで、ご利用者が楽しく美味しく食べられるように工夫をすることが大切でしょう。そして介護職は食事が身体へ与える影響や栄養バランス、ご利用者の病気や障害などを理解したうえで食事介助を行いましょう。

食事が難しくなるのはなぜ

私たちは食事の際、無意識のうちに、歯や舌、のど、食道などの器官がうまく機能することで、食べ物を噛み砕き、飲み込み体内に吸収しています。しかしながら加齢とともに各器官の機能・のどやあごの筋力低下などが進み、思うように食事ができなくなってきます。私たち介護士は食事介助をするうえで、そのような高齢者の体の変化についても予め知っておく必要があるでしょう。
まず、食事に関連する身体機能の変化についてみていきましょう。

1)口腔内に異変がある

自歯の本数

図)厚生労働省「令和元年国民健康・栄養調査報告書」データより

私たちは食べ物を口に入れた後、歯や舌、頬を使って細かく噛み砕いています。
高齢になると舌の運動機能が低下し、あごや頬の筋力も衰えてくるため、食べ物を噛む力が弱くなってきます。また、上図グラフにあるように歯の本数が減ったり、義歯が合っていないということも要因となります。総入れ歯になると、噛み砕く能力は健康な人の3分の1から6分の1になるといわれています。

厚生労働省「平成28年歯科疾患実態調査」によると、口腔内になんらかの異変を感じている高齢者が多数いることがわかります。

歯科疾患実態調査噛む力(咀嚼力)が弱くなると、咀嚼に時間が長くなったり唇の閉じが悪くなり、食べこぼすようになります。繊維質が多く硬い食べ物は食べにくくなり、軟らかい食事を好むようになっていきます。ご利用者の口腔状態に合わせて、食べやすい大きさにカットしたり軟らかくする等の必要があります。具体的にはこちら【食べやすくする工夫】の記事を参考にしてみてください。

2)飲み込む力(嚥下力)が弱くなる

口の中で食べ物を噛み砕いた後、唾液と混ぜ合わせて飲み込みやすい形にすることを食塊形成(しょっかいけいせい)といいます。高齢になると唾液の分泌量が少なくなり粘着きが増しため、食塊形成が困難になります。また通常、食べ物が喉を通るときには、瞬時に喉頭蓋(こうとうがい)が気管の入り口にフタをして食べ物を食道へと導きます。
この動きを「嚥下(えんげ)反射」と呼びます。高齢になるとのどの筋肉や靭帯の衰えによって嚥下反射がうまくできなくなり、気管に食べ物が入ってしまう「誤嚥(ごえん)」が起こりやすくなります。

3)感覚機能が低下する

・視覚

白内障や視野狭窄、半側空間無視といった障害により、食器の配置が正確に把握できず、食べ残してしまったりこぼしたりしやすくなったりします。

・味覚

舌や口の中にある「味蕾(みらい)」と呼ばれる器官の細胞は、若年者ほど多く、高齢者では新生児期の半分から3分の1になるといわれています。そのため甘味、旨味などの味を感じにくくなり、濃い味つけの料理を好むようになります。

・聴覚

「ごはんを食べましょう」「もうひとくち食べませんか」などのような声掛けは、「今から食事をする」という準備のための大切な刺激ですが、聴力低下により、この刺激は遮断されてしまいます。

・嗅覚

嗅覚は、男性では60歳代から,女性では70歳代から低下すると言われています。嗅覚が衰えることで食べ物や料理の匂いを感じにくくなるため、食欲が刺激されず、食事を楽しめなくなることがあります。

4)消化機能が低下する

加齢とともに胃液の分泌が減少、消化器官の機能も衰えてくるため、食事の後に胃もたれが起こりやすくなります。
不調が続くと、食欲不振につながることがあります。

5)喉の乾きを感じにくくなる

成人の体内水分量が約60%であるのに対し、高齢者の体内水分量は50~55%に下がるといわれています。そのため加齢とともに脱水症状になりやすい傾向があります。また口渇中枢が衰えるため、発汗などで身体が水分補給を必要としていても、喉の乾きを感じられない場合があります。ご利用者が水分不足にならないように摂取量を確認しながらこまめに水分補給を促す必要があるでしょう。

6)認知機能が低下する

認知症や認知機能の低下は、食事に影響を及ぼします。認知症の中核症状である「失念(目の前にあるものが何かわからなくなること)」が原因で、食べ物を食べ物として認識できなくなり、食事を拒否することがあります。
また、「失行(今までできていたことができなくなること)」という症状が生じて、食べ方がわからなくなってしまうこともあります。このような場合には、介護者が「これはおいしい○○ですよ」などと声かけをする、実際に食べる動作を見せて真似てもらうといった対策が考えられます。

認知症の中核症状についてはこちら⇒【認知症の基礎理解Ⅰ】認知症の定義から症状・原因まで徹底解説

食事前の準備

加齢に伴う身体機能の変化を学んだところで、実際の「食事介助」の方法について基本から見直してまいりましょう。落ち着いた環境で美味しく安全に食事を楽しんでいただくことが理想です。実際に食事を始める前にしておきたい準備について考えてみましょう。

①排泄を済ませる

何よりも大切なのが食事前に排泄を済ませてもらうことです。途中でトイレに行くとなると、食事を中断せざるを得ません。居室に設置したポータブルトイレを使用する場合は、排泄物のニオイが居室に充満し、食欲が失せてしまう可能性もあります。あらかじめ便意や尿意がないかを必ず確認、ポータブルトイレに排泄した場合はニオイの対策まで行い、すっきりした状態で気持ち良く食事を始められるようにしましょう。

②リラックスできる環境をつくる

テレビなどがついていると、ついそちらが気になり、食事に集中できない可能性が高まります。食事を始める前にはご本人に同意を得てテレビを消しておきましょう。逆に物音ひとつしない静かすぎる状態では緊張してしまう可能性がありますので、ゆったりとしたヒーリングミュージックをかけたりしてみるのもよいでしょう。

③口腔内を清潔にする

食事の直前に、うがいや歯磨きなどをして口の中を清潔にするとよいでしょう。口の中に汚れが残っている状態で誤嚥してしまうと、誤嚥性肺炎を発症するリスクが高まります。舌苔なども取り除いておくと、味を感じやすくなるだけでなく、唾液の分泌が活性化し、食べ物を飲み込みやすくなります。嚥下障害があるご利用者には、食事前に口腔清掃を行うことが望ましいとされています。

④唾液腺マッサージや嚥下体操などでウォーミングアップ

食べ物をつまらせてしまったり、むせこんで苦しい出来事が何度かあると、食事に対して苦手意識が生まれてしまうこともあります。心も身体もほぐしてリラックスした状態で食事を始めましょう。

⑤食事のための安全な姿勢を確保する

誤嚥を避けるため、飲み込んだ食べ物が気管に入らないように(頸部が後屈しないように)注意する必要があります。ご利用者の身体状況に応じてお腹や腰に力の入りやすい姿勢を確保しましょう。

・椅子の場合

椅子の高さは、両足の裏が床につくように、テーブルの高さは、肘が90度に曲がる程度に設定します。食事中は、背あてにもたれないように軽く前傾姿勢を保つこと ができるように整えましょう。

・車椅子の場合

フットレスト(足置き)は跳ね上げて、両足底がぴったりと床につくように設定します。テーブルの高さが合わない場合が多いので車椅子用のテーブルを使用するとよいでしょう。

・リクライニング車椅子の場合

背もたれの角度を90度、または45~80度程度に設定します。両膝は90度程度、両足の裏がフットレスト(足置き)につくように設定します。身体が安定しない場合はクッションを置いて対応します。

・ベッドの場合

背もたれの角度を45~80度程度に設定します。ずり落ちてしまう場合があるので一度座り直し、両膝を軽く曲げるようにするとなおよいでしょう。身体が安定しない場合は、背中、頭の後ろにクッションを置いて対応します。きる限り座位での食事介助が望ましいですが、上体が起こせないご利用者の場合、ファーラー位(半座位)で食事をすることもあります。座位と同様に頸部が後屈しないように注意します。

食事前の介助

①手を洗い清潔にする(手指消毒)

手で食べ物をつかんでしまうご利用者もいます。衛生面を考慮する上で基本となる大事な準備です。手が洗えない場合は、おしぼりやウエットティッシュなど使用してもらってもよいでしょう。

②食前薬があれば服用する

食前の薬には「食前薬」と「食直前薬」があります。看護師の指示を正しく守りおこないましょう。

③配膳する

食事形態が異なるご利用者にとってリスクが大きいため、配膳ミスがないようにご本人確認や職員同士のダブルチェックを行いましょう。

④献立(メニュー)を説明する

ご本人がメニューを把握することで唾液が出たり咀嚼の準備ができます。メニューを必ず伝えて、聴覚と嗅覚で確認してもらうようにしましょう。そうすることで食欲を刺激できます。自発的に「食べたい」と思ってもらうことがとても大切です。そして、あらかじめ食べ物の好みを把握しておくことで、苦手なものがあっても美味しく食べられる工夫をしたり、順序を考えたりすることができます。

⑤眠気がないか、意識がはっきりしているかを確認する

咀嚼は意識的に行う運動です。この確認は食事介助の途中でも都度行いましょう。

⑥正しい姿勢が保たれているか再度確認する

しっかりと顎が引けて頸部が後屈していないか、背もたれの角度はあっているかなど、再度確認しましょう。

食事中の介助

食事中は、正しい姿勢が保持できているかの他に、咀嚼や嚥下に問題はないのかを確認しながらご利用者のペースに合わせて食事をお手伝いする必要があります。ご利用者ごとに異なる「食事形態」ですが、基本的には医師や言語聴覚士、看護師等が評価をして決定しています。もし食事中にむせ込みなどが見られたらそのままにせず、リーダーや看護師に報告しましょう。

①介護士は必ずご利用者の隣(横)に腰かける

目線の高さを合わせましょう。そうすることで、ご利用者の口元までスムーズに手を伸ばすことができます。

②温かいものは温かく、冷たいものは冷たい状態で提供する

③できるだけお茶や汁物などの水分から勧める

高齢者は唾液の分泌量が少ないため水分の多い食べ物から食べるように勧めましょう。水分の多い食べ物は、胃散の分泌を活性化させるだけでなく、高齢者にとって乾燥した食材よりも食べやすいため、ウォーミングアップ的な役割を担います。

④正しく口元まで運ぶ

テースプーンに軽くひと口量取り、ご利用者の目で確認できる位置で口元まで運ぶようにしましょう。一回の大きさや量に注意することがとても重要です。顎が下がって下向きになると、誤嚥しにくくなるため、スプーンは下から差し出すようにします。スプーンは口の奥まで入れないように注意しましょう。

⑤主食・副菜・水分を交互に介助する

料理の温度に注意しながら、主食・副食・水分を交互にバランス良く介助します。

⑥食事を急かさない

前に食べたものをしっかりと飲み込みできて、口の中に残っていないことを確認し、次の食事を運びましょう。焦って食べると、誤嚥やのどの詰まりを引き起こしてしまいます。くれぐれも職員のペースではなく、ご利用者の咀嚼・嚥下のペースに合わせましょう。

⑦食事の終了のタイミング

食事にかかる時間はご利用者によって異なります。a.ご本人の姿勢が維持できなくなる b.食事に集中できなくなる c.食事が進まなくなる、などの現象がみられたら、食事量を確認し終了するかどうかをご本人に確認するとよいでしょう。

片麻痺の方の食事介助

  • スプーンで食べ物をすくいやすくするため、食器は縁に角度が付いたものを使いましょう。
  • 握りやすく、口元にはこびやすくするため太く長い柄のスプーンを使ってみましょう。
  • 食事中に姿勢が傾く場合には麻痺側にクッションなどを設置しましょう
  • 足底は床につけるか、踏み台をおいて姿勢を正してもらいましょう。
  • 咀嚼や嚥下がしやすいように麻痺ではない側(健側)の口に食べ物を運びましょう
  • 麻痺側の口腔内に食べ物が残っていないか(残渣)を確認しましょう
  • 片側の食物を見落としていないか確認しましょう。

眠気が強い方の食事介助

眠剤の内服や疲労・意識障害などの影響で食事の時間にも眠気が強くなってしまう場合があります。ご利用者に合わせて選んでみてください。また、眠気が強い場合は、誤嚥のリスクがとても高くなりますので無理はせず食事を中止したほうがよいでしょう。

  • 食事前に軽い体操をして心身に軽い刺激を与えましょう
  • 氷棒などで口腔内を刺激してみましょう
  • 耳元で声かけを行っていきましょう
  • 一回の食事時間を短めにしてみましょう
  • 一旦食事を中止し、時間帯を変更してみましょう
  • 食事前に軽く仮眠を取ってもらいましょう

リクライニング車椅子を使用している方への食事介助

体力の低下など何かしらの理由で座位を保つことができない方でリクライニング車椅子を使用される場合があります。そのままの姿勢で食事を食べてしまうと誤嚥を引き起こすなどリスクが高くなります。注意して介助しましょう。

  • 食事前に口腔ケアを行うなど、口の中を清潔にしましょう
  • 食事前に口腔体操や唾液マッサージなどを行い、唾液を分泌しやすくしましょう
  • リクライニングの角度を60〜80度に調整し姿勢を正すことで食事のご縁を防ぎましょう
  • 食事介助中のずり落ち防止のため、膝の角度は90度、又は膝下に枕やクッション等を設置し、姿勢を整えましょう
  • 車椅子のフットレストにしっかりと足をのせ、姿勢を整えましょう
  • 顎が上がってしまわないように、後頭部や首の下に枕やクッションなどを設置し姿勢を整えましょう
  • 食べ物を目で確認してから口に運ぶことで唾液の分泌を促していきましょう

食事後の介助

①食事・水分の摂取量記録

食事が終わったら、食べた量を確認してから下膳しましょう。残飯の量を毎回計測する事業所はよいのですが、介護士によって「主食8割、副食7割摂取」などの場合、判断基準が曖昧であったりすることが多いので事前に職員同士で判断基準のルール決めをしておくと良いでしょう。定期的に食事の摂取量を確認することは、ご利用者の状態を把握する上でとても重要です。

②食事後の内服薬を忘れずに

③口腔ケアを行う

食後はご利用者の口の中に食べ物が残っていないか確認し、うがいや歯磨き、口腔スポンジなどで丁寧に口腔ケアを行いましょう。食べ物が残っていると、むせこんで窒息してしまったり、口内炎・歯周病につながる可能性もあります。また、ご利用者が義歯を使用している場合は、義歯洗浄も忘れないようにしましょう。

④すぐに横になることは避ける

食後すぐ横になると、食べたものが逆流しやすくなります。少なくとも食事から20~30分は時間をおくことが必要です。

まとめ

プロの介護士として正しく介助して、食事を楽しい時間に。

介助の方法ひとつで、高齢者にとって食事の時間が「楽しみな時間」にもなれば「苦痛な時間」にもなり得るでしょう。
私たちのように自由に外出したり趣味を楽しんだりすることが難しい要介護者にとって、食事が楽しいかどうかは、生活の質(QOL )を左右する大きなポイントとなるのではないでしょうか。おいしいものを食べ、毎回の食事を心待ちにすることで、生きることへの活力となり、前向きな気持ちが持てるようになると思います。ご利用者の気持ちに寄り添い、「どんな介助をしたらご利用者が楽しく美味しく食事を食べることができるのか?」を考えながら、介助を行うことがとても大切です。ケアピストラボではプロの介護士として明日から実践できる情報を引き続き発信してまいります。ぜひ次回の記事もご覧くださいね。